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あずさがわのじょうりゅう
山岳紀行文集 日本アルプス
小島 烏水
Read 山岳紀行文集 日本アルプス (あずさがわのじょうりゅう) by 小島 烏水 (こじまうすい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,795 characters · 274 screens
灰がフーッと舞い立って、木の葉の露で手の辷べる杖までが、ザラつくようになった、木の間がくれに焼岳を見ると、肩から上の半分だけ、新しい灰を冠って、死人のように白くなっている、穂高山の方から、岳川が梓川の本流に突っ込んで来るところで、嘉代吉は若い男を振りかえって「兄ぇ空(上)へ行けやい」と腮で指図しながら、杖をコツンと石について考えている。
川添いの森には、苔で青くなった石が丸く寝ている上を、樅や椹が細い枝を張り合っている、脂くさい空気を突ッついて、ミソサザイがしきりに啼く、岳川から石の谷を登る、水はちっともない、独活の花がところどころに白く咲いている、喬木はしんしんと両岸に立ちふさがって、空を狭くしているが、木の幹が斑らに明るくなるので、晴れてるのだとおもう、どうかすると梢の頭から、水が飜れたように、ちらりと光って、鏡のような小さな空を振り仰がせる、草鞋の底が柔らかくプクプクするので、足の爪先に眼をおとすと、蒼い苔がむくんだ病人の顔のようにふくれて、石の厚蒲団が、暗いところでゴロゴロ寝ている。
樹は次第に稀れになって、空は頭の上にひろがってくる、根曲り竹も少しはあるが、白樺やナナカマドが幹も梢も痩せ細って、石の間に挟まっている、穂高から焼岳へとつづく