Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
Read 山彦乙女 (やまびこおとめ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 126,360 characters · 251 screens
――安倍は人間嫌いだから、草木でも相手にするほうが気楽だろう。
そんなことを云っていた。そしてこんどの役替えになったのである。
谷町から木挽町へゆくと、山村座は休演ちゅうであった。毎年七月いっぱいはたいていの芝居が休む。断わるまでもないだろうが、当時は照明に蝋燭を使うため、客席の出入り口や戸や窓を閉めなければならない。それと、じっさいにも、暑いから客足がおちるので、よほどの条件でもないかぎり、休演するのが例であった。
いつもはためいている幡旗もなく、絵看板も、役者の名を書きつらねた庵看板もなく、ひっそりと木戸をおろした劇場や、その前の、人通りも稀な広い道の上に、午ちかい晩夏の日が、ぎらぎら照りつけているさまは、云いようもなくもの佗しい、眺めであった。
「まあお珍しい、ずいぶんお久しぶりですね」
茶屋の店の脇で、客膳用の器物を出して、つや布巾をかけていた女中たちのなかから、おいそが呼びかけ、同時になをが、冠っていた手拭や、襷を外しながら出迎えた。
「ひまなもんですから、いろんな物の風入れをしてますの、今日はおつれさまは」
「あとから来るが、いいのか」
「なにがですか」