Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
Read 山彦乙女 (やまびこおとめ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 126,360 characters · 251 screens
新町とは彼の仮の名であろう、羽折も袴も、乗馬用のものである。主馬は爽やかな、緊張した、活気の溢れるような顔つきで、つかつかと入って来て坐った。
「すぐ終るから、ちょっと……」平四郎は色筆を動かしながら、主馬のほうは見もしないで、云った。
「手紙は十日に貰いました、しかし今日こっちへ来たのは、いっしょにでかけるためじゃありません」
「――でかけないって」
平四郎は運筆をやめない、なにかの草の葉を、じつに入念に塗っている。
「これから関所で、ちょっとひと揉みあるんですが、それが済んだら江戸へ戻ります」
平四郎はなにも云わなかった。彼はいつでも、相手に云うだけのことを云わせる。合槌を打つこともなければ、せきたてることもなかった。
「それというのが、なにか感づいたのでしょう、土屋侯が代表でいきり立ちましてね、旗本にして十日以上、江戸を離るる者は、老中連署の認証を要す、などという緊急特令を拵えちまったんです、だから今すぐには動けないし、事情によると無届け脱出ということになるかもしれませんが、とにかくそういうわけで」
「どうしてまた、急にそんなことが……」
「口火になる事があったんです、安倍が出奔しましてね」