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ひゃくものがたり
山椒大夫・高瀬舟
Read 山椒大夫・高瀬舟 (ひゃくものがたり) by Mori Ōgai (森 鴎外) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,466 characters · 92 screens
作者が漫然と医者の術語を用いて、これに Casuistica と題するのは、花房の冤枉とする所かも知れない。
落架風。花房が父に手伝をしようと云ってから、間のない時の事であった。丁度新年で、門口に羽根を衝いていた、花房の妹の藤子が、きゃっと云って奥の間へ飛び込んで来た。花月新誌の新年号を見ていた花房が、なんだと問うと、恐ろしい顔の病人が来たと云う。どんな顔かと問えば、只食い附きそうな顔をしていたから、二目と見ずに逃げて這入ったと云う。そこへ佐藤という、色の白い、髪を長くしている、越後生れの書生が来て花房に云った。
「老先生が一寸お出下さるようにと仰ゃいますが」
「そうか」
と云って、花房は直ぐに書生と一しょに広間に出た。
春慶塗の、楕円形をしている卓の向うに、翁はにこにこした顔をして、椅子に倚り掛かっていたが、花房に「あの病人を御覧」と云って、顔で方角を示した。
寝台の据えてあるあたりの畳の上に、四十余りのお上さんと、二十ばかりの青年とが据わっている。藤子が食い付きそうだと云ったのは、この青年の顔であった。
色の蒼白い、面長な男である。下顎を後下方へ引っ張っているように、口を開いているので、その長い顔が殆ど二倍の長さに引き延ばされている。