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こうじょうさいぼう

工場細胞

小林 多喜二

Read 工場細胞 (こうじょうさいぼう) by 小林 多喜二 (こばやしたきじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 91,234 characters · 184 screens

Aozora Bunko

――彼は一人先きにドンドン小走りに横切ってしまうと、向い小路で女を待った。お君は落付いて胸を張り、洋装の人が和服を着たときのように、着物の裾をパッ、パッとはじいて、――眼だけが森本の方を見て笑っている――近付いて来た。肩を並べて歩きながら、

――森本さん温しいのね。

とお君が云った。

――あ、汗が出るよ。

――男ッてそんなものだろうか。どうかねえ……?

薄い浴衣は円く、むっつりした女の身体の線をそのまゝ見せていた。時々肩と肩がふれた。森本はギョッとして肩をひいた。

――のどが乾いた。冷たいラムネでも飲みたい。何処かで休んで、話しない?

少し行くと、氷水店があった。硝子のすだれが凉しい音をたてゝ揺れていた。小さい築山におもちゃの噴水が夢のように、水をはね上げていた。セメントで無器用に造った池の中に、金魚が二三匹赤い背を見せた。

――おじさん、冷たいラムネ。あんたは?

――氷水にする。

――そ。おじさん、それから氷水一ツ。

森本を引きずッて、テキパキとものをきめて行くらしい女だと分ると、彼はそれは充分喜んでいゝと思った。彼はこれからやっていく仕事に、予想していなかった「張り」