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パリのキャフェ
巴里のキャフェ
岡本 かの子
Read 巴里のキャフェ (パリのキャフェ) by 岡本 かの子 (おかもとかのこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 3,397 characters · 7 screens
桃色の練菓子に緑の刻みを入れたような一掴みの建物だ。
春は陰影で煮〆たようなキャフェ・マキシムでもなかろう。堅苦しいフウケでもなかろう。アメリカの石鹸臭いアンパはなおさらのことだ。ギャルソンの客あしらいに多少の薄情さはあっても、それがいつも芝居の舞台のように陽気に客を吹き流して行くロン・ポアンの店が、妙に春に似合う。マロニエの花にも近いというので、界隈の散歩人は入れ代り立ち代り少憩をとる。
「飴を塗った胡桃の串刺しはいかが?」
「燻製鮭のサンドウイッチ、キァビヤ。――それから焙玉子にアンチョビの……。」
少女達がいろいろなサンドウイッチを手頃な荷にして、ギャルソン達の忙しいサーヴィスの間を、邪魔にならぬように詰った客の間を、売歩く。
「あの、桃の肉が溶けているイタリーのヴェルモットはありませんかしら」
と誂えて置いて、トオクを冠った女客がホールの鏡壁の七面へ映る七人の自分に対して好き嫌いをつけている。後向き、好き。少し横向き、少し好き。真横、好かない。七分身、やはり少し。では真向きの全身――椅子を直すふりして女客は立ち上った。が、真向きの一番広い鏡面は表のマロニエの影で埋まっている。