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へいぼん
平凡・私は懐疑派だ
二葉亭 四迷
Read 平凡・私は懐疑派だ (へいぼん) by 二葉亭 四迷 (ふたばていしめい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,548 characters · 161 screens
お糸さんは何を貰っても、澄して礼を言って、其場では左程嬉しそうな面もせぬ女だったが、此時ばかりは余程嬉しかったと見えて、大層喜んだ。
もう後悔しても取反しが附かなくなって、止むことを得ず好加減な口実を設けて別々に内を出て、新富座を見物した其夜の事。お糸さんを一足先へ還し、私一人後から漫然と下宿へ帰ったのは、夜の彼此十二時近くであったろう。もう雨戸を引寄せて、入口の大ランプも消してあった。跡仕舞をしているお竹が睡たそうな声でお帰ンなさいと言ったが、お糸さんの姿は見えなかった。
部屋へ来てみると、ランプを細くして既う床も敷ってある。私は桝でお糸さんと膝を列べている時から、妙に気が燥って、今夜こそは日頃の望をと、芝居も碌に身に染みなかった。時々ふと気が変って、此様な女に関係しては結果が面白くあるまいと危ぶむ。其側から直ぐ又今夜こそは是が非でもという気になる。で、今我部屋へ来て床の敷ってあるのを見ると、もう気も坐ろになって、余の事なぞは考えられん。今にも屹度来るに違いない、来たら……と其事ばかりを考えながら、急いで寝衣に着易えて床へ入ろうとして、ふと机の上を見ると、手紙が載せてある。