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ゆうれいとスクリュウ
幽霊と推進機
夢野 久作
Read 幽霊と推進機 (ゆうれいとスクリュウ) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,905 characters · 24 screens
その夕方の夕焼けのスバラシサは、今でもハッキリと眼に残っている。あらん限りの綺麗な絵の具に火を放けて、大空一面にブチ撒いたようで、どんなパノラマ描きでもアンな画は書けなかったろう。眼が眩んで息が詰まる位ドエライ、モノスゴイものであった。
私は潮飛沫を浴びながら甲板の突端に掴まって、揺れ上ったり、揺れ下ったりしいしい暗くなって行く、真青な海の向う側をボンヤリと見惚れていた。するとその肩をダシヌケに叩いた者が居たのでビックリして振り返ってみると、それは小男の二等運転手であった。
その顔を見た瞬間に……又暴風だな……と直覚した私は、空っぽになったウイスキーの瓶を頭の中で、クルクルと廻転させた。
小男の二等運転手は鈎鼻をコスリコスリ下手な日本語で云った。
「水夫長ドコ行キマシタ」
「先刻頭が痛いと云って降りて行ったようですが?」
「困リマス、バロメーの水銀無クナリマス」
「……驚いたなあ……また時化るんですか」
運転手は返事せずに、階段の方向へ駈け出した。同時に下から不安な顔をさし出した一等運転手と、肩を並べて降りて行った。だから私も何かしら不安な気持に逐われながら、下甲板伝いに食堂へ降りて行ったが忽ち……アッ……と叫んで立ち止まった。