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ふくいんさつじんじけん
復員殺人事件
Read 復員殺人事件 (ふくいんさつじんじけん) by Sakaguchi Ango (坂口 安吾) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 96,621 characters · 195 screens
蛸のツカミ屁で気合いをかける必要どころか、話の泉の物識り博士のようなものだな」
「エッヘッヘ」
蛸重はキマリ悪そうな笑いをうかべ、ことさら顔をしかめて、ブッと又ツカミ屁をやり、頭上に放して気合いをかけた。
「おほめにあずかるほどのことも有りませんやね。実はタネがありましてね。昭和十五年六月の何日だかに、この家族が身長をはかって、計器の棒に書きこんであるんでさアね。これじゃア、まちがえる筈がありませんや」
安彦がホンモノでなければ、事件は急転直下、解決しそうであった。安彦のもと居た療養所とか同僚を探しだして、きけば分る。こんな風変りな復員丹下左膳が人々の記憶に残らぬ筈はないから、つきとめるのは容易であろう。
然し、安彦がニセモノであるとしてみると、問題は指紋であった。指紋にトリックがあるわけである。そして指紋によって安彦のホンモノを立証した美津子は、最も不利に立つわけであった。
「身長のほかに、安彦らしくないところが、見当らないかね」
「どこと云って、一つとして、安彦さんらしくありませんやね。腕が一本、足が一本。目はつぶれ、耳は半欠けの、アゴが半欠け、鼻まで半欠けでさアね。