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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Read 怪しの館 短編 (あやしのやかた) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,915 characters · 165 screens
「こんな晩は早く寝た方がいいなア」
五人の湯治客も、今の笛の音に不審を起こしたらしく、黙って顔を見合わせ、耳を澄ました。
お蘭は湯に浸かりながら空想にふけっていた。
(あたしは男に憎まれたり、大事な男の心を、女を憎むようなひねくれた心になんかしやしない)
そんなことを空想していた。大事な男というのは、一ヵ月先になると自分の良人となるべき、布施屋の息子のことであった。
(進一さんだって、わずかな金――小判一枚のゆきちがいぐらいで、人を叩き倒すような兇暴い性質の人じゃアないから安心だわ)
彼女にはさっきの湯治客の話が、やはり心にかかっているのであった。
この湯殿は主屋と離れてたててあり、そうして主屋よりひくくたててあった。それで二十段もある階段が斜に上にかかって、その行き詰まりの所に出入り口があり、そこに古びた長方形の行燈がかけてあった。それでこの十坪ぐらいしかない湯殿は、ほんのぼんやりとしか明るくなかった。湯槽の広さは三坪ぐらいでもあろうか、だから高い階段の一番上に立って、湯に浸かっているお蘭を見下ろしたなら、薄黄色い行燈の光と、灰色の湯気とに包まれた、可愛らしい小さい裸体の人形が、行水でも使っているように見えたことだろう。