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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Read 怪しの館 短編 (あやしのやかた) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,915 characters · 165 screens
「誰がよ」
「娘っ子が」
「あたし? フーッ。……湯屋の娘が男の顔見て恐がっていたのでは商売にならないわ。フーッ。明日は雨よ、今夜のお湯とても湯気が濃いんだもの。匂いだって強いし。……こうと、あんたきっと猟師さんね」
「猟師?」
と男は吃驚りし、
「何故だい?」
「いい体しているもの。……骨太で、肉附きがよくて、肩幅が広くて……」
「猟師じゃアねえ」
「じゃア樵夫さんね」
「樵夫だって」
吃驚りして、
「違う」
「そう」
「お前さん何んていう名だい?」
と今度は男が訊いた。
「お蘭ちゃん」
「ふうん。そのお蘭ちゃん幾歳だい?」
「十七」
「年頃だ」
「そうよ。だから妾来月お嫁に行くんだわ」
「どこへ?」
「進一さんの所へ」
「親しそうに云うなア。以前から知ってる男かい?」
「幼な馴染なの」
「お前さんを可愛がっているかい?」
「雪弾丸投げつけてよく泣かせたわ」
「ひどい野郎だな」
「あたしの泣き顔が可愛いのでそれが見たかったんだって」
「負けた」
と男ははじめて笑った。好意ある笑い方だった。
この時、また鋭い笛の音が谷の方から聞こえて来た。と、それに答えて、山の方からも同じような笛の音が聞こえて来た。