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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Read 怪しの館 短編 (あやしのやかた) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,915 characters · 165 screens
「七五郎か、他の奴らは?」
「さっきまで囲炉裡側で、五人揃って、お頭のおいでになるのを待っていましたが、捕方どもが飛び込んで参りましたのでチリヂリバラバラ、この家のあちこちに……」
「集めなけりゃアならねえ。……一つに集まって三国を越して越後境いへ!」
主屋と離れ、崖の中腹に、懸け作りになっている別館が一棟、桜や椿や朴の木に囲まれ、寂然として立っていた。主屋と別館とをつないでいるものは、屋根を持っている渡り廊下で、真珠のような月の光が、木の間を洩れて廊の欄干へ、光の斑を置いていた。別館の一間に寝ているのは、耳を病んでいる松乃であった。枕もとには水を張った小桶が置いてあり、その横には良人の内記が、心配そうにして坐っていた。
この優しい親切な良人は、寝もしないで妻の介抱をしているのであった。
「だんだん騒ぎが烈しくなるが、何んだろう?」
長岡藩の槍奉行、坂田内蔵之丞の総領内記は、妻が眠るようにと、わざと燈を細めた行燈を無心に見詰め、耳をかしげながら呟いた。
松乃は、痛む左の耳を上にし、反対の頬を枕にうずめ、夜具の襟から、蒼白の顔を覗かせ、眼を閉じていた。さっき、鋭い呼笛の音がし、つづいて主屋の方から、悲鳴や、襖、障子を蹴ひらく音や、走り廻る音が聞こえて来、僕の三平翁が、あわただしく様子を見に行ったがまだ帰って来ない