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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Read 怪しの館 短編 (あやしのやかた) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,915 characters · 165 screens
と、その廻廊の一所へ、ポッツリと人影が現われた。
若い娘の姿である。
建物に向かって声をかけた。
「お父様、お父様!」
肩の辺に月光がさしている。で、そこだけが生白く見える。
「お父様、お父様!」
――すると、建物の戸口から、ポッツリと人影が現われた。
戸口と廻廊とは続いている。
現われたのは武士であった。
しゃべっていた武士に相違ない。
ちょうど廻廊の真ん中どころで、二つの人影はいきあった。そこへは月光がさしていない。で、姿はわからない。
ただ、声ばかりが聞こえて来る。
「いよいよ今晩でございます。今晩限りでございます」
こういったのは娘らしい。
「ああそうだよ、今晩だよ。そうして今晩限りだよ」
こういったのは武士らしい。
と、しばらく無言であった。
三
ザワ、ザワ、ザワと音がする。木立へ宵の風が渡るらしい。
泉水の水が光っている。月が照らしているからだろう。
泉水の向こう側がもり上がっている。大きな築山でもあるのだろう。その頂きがぬれている。月光がこぼれているからだろう。パタ、パタ、パタ……パタ、パタ、パタ……水鳥の羽音が聞こえて来る。