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きょうふじょう
恐怖城 他5編
佐左木 俊郎
Read 恐怖城 他5編 (きょうふじょう) by 佐左木 俊郎 (ささきとしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 143,735 characters · 290 screens
「無罪さ? 無罪に決定したんだ」
「無罪? ほっ! 無罪かね。それじゃ、敬二郎さんは喜んでるベ?」
「敬二郎の奴なんか、なにも喜ぶわけねえさ。紀久ちゃんは敬二郎の奴なんか好きじゃねえんだもの」
「それは初耳だなあ」
卯吉爺はそう言いながら、酒の肴に烏賊の塩辛を運んできた。
「今度だって紀久ちゃんは、無罪に決定したっていう電報を敬二郎の奴に寄越さねえで、おれに寄越してるんだからなあ。紀久ちゃんはむしろ、敬二郎の奴を嫌ってるんだよ」
「それじゃ、お嬢さんは敬二郎さんよりも、正勝さんのほうを気に入っているのじゃねえのかな? どうもそうらしいなあ」
爺はそう言いながら、酒を運んできた。
「おれはどっちを好きだか、そんなことは知らねえがな。しかし、敬二郎の奴を好きでねえことだけ、これは確かなことなんだ。もし敬二郎の奴を好きなのなら、今度だっておれのほうさ電報を寄越すわけはねえからなあ」
正勝は上半身をぐっと後ろに引くようにして、炉の火の上に大股を開いた。
「そりゃあ、敬二郎さんよりもお嬢さんは正勝さんを好きなのだよ。それに違いねえとも。それ! 熱いうちに……」
爺はそう言って、燗のできている酒を注いだ。