Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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あくにんのむすめ

悪人の娘

野村 胡堂

Read 悪人の娘 (あくにんのむすめ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,405 characters · 27 screens

Aozora Bunko

一足飛に段々を登って大廻りに橋の上に出ると、橋桁の下から這い上った茫々たる頭の持主、もう欄干に手をかけて、上へ飛上ろうとして居ります。

「鳴海さん、その乞食を捕えて下さい」

橋の下から続いてもう一人、それはいうまでもなく、蒸気の屋根から飛付いた無頼漢です。

思いもよらぬ自分の名を呼ばれて、ハッと驚いた鳴海、見るともう欄干を超えた乞食は、身を跳らして浅草の方へ逃げ出そうとして居ります。捕えようか、放って置こうか、鳴海は一瞬間迷うともなく躊躇う暇に、

「あれ、お父様、逃げないで……どうぞ、このまま、このまま、縛られて下さい」

何処から現われたか美しい娘、乞食姿の父に取りすがって必死に争って居ります。

「放せ、こら、土岐子、放せ」

「お父様ど、どうぞ、逃げないで」

娘の声は涙に咽んで、あやしくかき消されますが、繊手は蔓草のように父親の身体に縋り付いて、死ぬまでもと争い続けて居ります。

「権堂、未練だぞ娘の手で縛られろ、せめてもの罪亡しだ!」

凜として叱咤の声。

振り返ると、あの無残な無頼漢が、ハンティングをかなぐり捨てて、父娘相争う不思議な情景をじっと見詰めて居ります。