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あくいんねんのうらみ
悪因縁の怨
江見 水蔭
Read 悪因縁の怨 (あくいんねんのうらみ) by 江見 水蔭 (えみすいいん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,705 characters · 28 screens
と市助も跣足で夕立後の道悪を歩いて行った。
「よもや、鳶の者の二の舞はなされまい。何しろ御旗本でも御裕福な六浦琴之丞様。先殿の御役目が好かッたので、八万騎の中でも大パリパリ……だが、これが悪縁になってくれなければ好いが、少々心配だて」
「宗匠、大層、月並の事を仰有いますね」
「何が月並だよ」
「だって、吉かれ凶しかれ事件さえ起れば、あなたの懐中へお宝は流れ込むんで」
「金星、大当りだ。はははは」
笑いながら土手の上に出て見ると、そこには船は見えなかった。
「おや、今の夕立で船が沈んだか。それとも雷鳴が落ちて、微塵になったか」
「そんな事はありませんや。どこかへ交しているんでしょう。なにしろ呼んで見ましょう」
「なんと云って呼ぶかね。羽田の弁天娘のお玉の船やアーい、か」
二人が土手で騒いでいる声を聴いて、中洲の蘆間を分けて出て来たのは、苫の代りに帆で屋根を張った荷足り船で、艪を漕いでいるのは、弁天娘のお玉だが、若殿六浦琴之丞の姿は見えなかった。
「宗匠、いよいよ遣られましたぜ。鳶の者が櫂で叩落されたと同じ様に、御前も川へドブンですぜ。肱鉄砲だけなら好いが、水鉄砲まで食わされては溜りませんな」