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かなしめるこころ
悲しめる心
宮本 百合子
Read 悲しめる心 (かなしめるこころ) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 16,423 characters · 33 screens
明けの夜は名のみを止めた御霊代を守って同じ夜の色に包まれるのであろう。
(五)
白みそめる頃からの小雨がまだ止もうともしずに朝明の静けさの中に降って居る。
眠りの不足なのと心に深く喰い込で居る悲しさのために私の顔は青く眼が赤くはれ上って居た。
雨のしとしとと降る裡を今に私共はこの妹を静かに安らえるために永久の臥床なる青山に連れて居かなければならない。黒い紋附に袴をはく。
棺前祭の始まる少し前あの妹を可愛いがって居て呉れたお敬ちゃんが来て呉れた。
涙をためて雨の中を送りたいと云う人のあるのも知らないのだろう。遺される人の心も――若し知って居るとしたらどうして斯うして冷かに安らけく横わって居る事が出来るだろう。
棺前の祭は初められた。
白衣の祭官二人は二親の家を、同胞の家を出て行こうとする霊に優い真心のあふれる祭詞を奉り海山の新らしい供物に□□台を飾って只安らけく神々の群に交り給えと祈りをつづける。
御玉串を供えて、白絹に被われる小さい可愛らしい棺の前にぬかずいた時今までの涙はもう止められない勢を持って流れ落ちた。
様々の思い――悲しみと悔い、心を痛めて起る様々の思いに頭が乱されてクラクラとなった、今にも何か口走りそうであった。