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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
Read 我が家の楽園 (わがやのらくえん) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 90,195 characters · 175 screens
「でもねえ、アメリカ人が靴で踏んでいた床へ、いきなりチャブ台を据えるのは、どんなもんでしょう。渋谷のバラックならともかく、こういった式にできている家ですから、やはり、椅子のほうが便利ではないでしょうか。現実に、五十雄の背骨だって、このほうが楽だし、それに、椅子の生活をしていると、二三年で、猫背がなおるそうですね。あなたにしたって、いい都合だろうじゃありませんか」
そういうと、となりのソファにいる千々子さまと眼を見あわせて、ほほほと笑った。
石田氏は、だまって庭のほうをながめていたが、急にこちらへ向きかえると、
「そんな無礼なことを、誰がいったんだ? ひとを馬鹿にして笑っているより、正直に肚を割って相談するほうが、話がはかどる。家屋引渡しの日の、お前たちのうわずったような眼の色をみて、どんなことをしたがっているか、おれにはわかっていた」
賢夫人は、居なりのまま、上手に土瓶をひきよせ、茶碗に茶を注いで飲みながら、
「それはそうでしょうとも。終戦から七年の間、渋谷のバラックで、ギスギスした生活をして来ましたが、あたしにしても、千々子にしても、そのうちに境遇が変ったら、こうもしてみたいというような、いろいろな望みがあったわけです。