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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
Read 我が家の楽園 (わがやのらくえん) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 90,195 characters · 175 screens
「ねえ、お母さま、パパが腹をたてて、火をつけたのだったら、たいへんね。もし、そうだったらどうしましょう……悲劇だわ。みじめだわ」
と、おなじことを、いくどもくりかえしていた。
消防自動車が三台、ヘッド・ライトで樹牆を照しながら砂利道をうねりあがって来、プールの水で火を消しにかかった。
石田氏は、五十雄君と二人で芝生の縁石のうえに立って、消防局の活動をながめながら、
「プールの水を使われると、高価いものにつくのだが」
と、ぶつぶついっていた。
石田家における火災は、洋館といっている、翼屋の東裏にある純米風の台所と、半地下式、木骨コンクリートの食料庫の屋根を全焼したところで消しとめられ、そこで夜が明けた。
焼跡へ行ってみると、そこらいちめんビショビショに水びたしになり、黒焦げになった間柱から水蒸気が立ち、タイルの調理台のうえに、電気オーヴンが一塊の金屑になって残っていた。
火事は大事にならないうちにおさまったが、その後の諸関係は、なまやさしいことではすまなかった。
波瀾の端緒は、こんなふうに、なにげないところからはじまった。
焼跡に立っていた巡査部長というひとが、ニコニコ笑いながら手招きするので、百々子も笑いながら傍へ行くと、人相にふさわしからぬ、甘ったれたような猫撫で声で、こんなことをたずねた。