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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
Read 我が家の楽園 (わがやのらくえん) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 90,195 characters · 175 screens
空襲警報が鳴ると、神棚に灯明をあげ、家令に運ばせた紋綸子の大座団のうえにおさまって、
「うちゃのー、政界に身を置いていた間は、いつ刺されるかも知れんという、難局にばかり立たされちょったから、イザという場合の隠れ場をこさえておいたが、こやつが、将来、アメリカの火の子を防ぐ役に立つようになろうなどとは、さすがのおれも、思いはせんじゃった」
などと、天照皇大神を祀った大神棚を背にして、偉そうなことをいって恍けていた。
接収後は、進駐軍の調達令に狼狽した日本政府が、PDの言いなり放題に、終戦当時の十数万円を費して、浪人部屋を至れり尽せりの米式ケチンに改造し、吉良の雑倉は、ケチンにつづく廊下を鉄扉で遮断して、冷房つきの食料庫にこしらえなおした。尤も、このほうは、火事騒ぎがおさまってから、意外な事情によって、端なくも所在が知れたので、そんな仕掛けがあることに気のつくものはなかった。
警察側では、わが石田家の火災は、当日の深夜ぐらいにケチンの天井裏でくすぶりだした火が、長い時間をかけてその辺を舐めまわり、翌日の未明になって、いちどに屋根へ燃えぬけたのだと睨んでいたが、出火前後の事情を取調べているうちに、くすぶり加減の、あまりにも悠長すぎることに、疑問をもちだした。