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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

Read 我が愛する詩人の伝記 (わがあいするしじんのでんき) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 116,728 characters · 231 screens

Aozora Bunko

小谷はこの騒ぎの間に眼鏡を外したが、足もとが明るくなり良く見極めがついてしゃんと歩けた。刑事はこの足もとをまた不思議そうに見入った。家の近くまで来ると、刑事は、あ、この家の先生でしたかと言って、ぐずつくと此方が危ないと見え、さっさと引き上げて行った。

翌々日、出講の学校の階段で、小谷は迢空のうしろから登って行ったが、階段が凹凸に見え、踏み外して転がり墜ちた。迢空はその原因が眼鏡にあることを知ると、階段下で、低い声で耳のそばに来て言った。

「階段を登るときは君、眼鏡を外さないと危ないぞ。」

きずつけずあれ

わが為は 墓もつくらじ―。

然れども 亡き後なれば、

すべもなし。ひとのまに/\―

かそかに たゞ ひそかにあれ

生ける時さびしかりければ、

若し 然あらば、

よき一族の 遠びとの葬り処近く―。

そのほどの暫しは、

村びとも知りて 見過し、

やがて其も 風吹く日々に

沙山の沙もてかくし

あともなく なりなむさまに―。

かくしこそ―

わが心 しづかにあらむ―。

わが心 きずつけずあれ

迢空は手料理の上手な人だった。大正四、五年頃に、本郷の下宿にごろついていた時代に、天ぷらやをしたかったが、金がなくて店が張れなかった、と、学成った折にかれは愉しそうにそれを物語った。