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せんそうざっき
戦争雑記
徳永 直
Read 戦争雑記 (せんそうざっき) by 徳永 直 (とくながすなお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,149 characters · 25 screens
私はぼんやり、板戸の戸口の所に、腰掛けたまま、それを見ていたら、どうしたのか、祖父が皺くちゃの手で私の手を握りながら、上り框の父の居る方に引っ張って行った。それで私と一緒に遊んでいた妹もベソをかきながら、私に蹤いてきた。
すると、父は、平素の顔と変にちがった顔付をして、私の頭を撫でて何か云おうとしたが、私には聞きとれなかった。
「父さんはナァ、センソウにゆきなさるけん、温なしゅうして、遊んでいなはり――、ナァ好えかい?……」
祖父が、そばからそう云って、私を頷ずかせた。「父はロスケ征伐にゆくのだ」と私は合点した。私は父と別れるという様な悲しみは、少しも起らなかった。ただ父は剣も持っていなければ銃も持っていないので、何となしに物足りなかった。
それから二三日して、父は家に居なくなった、おおかた、私達が、寝ている間、朝早くか、夜の中にでも、戦争にいってしまったらしかった。
「母さん、戦争のあるところって、どっちの方?」
私と二つ異いの姉は、夜、母を真中にして、寝てから、こう聞くことがあった。父が居なくなってから、母はランプの石油を、余計に費いやすことを恐れて、夜なべが済むと、すぐ戸締りして、寝床を作った。