Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
Read 支倉事件 (はせくらじけん) by 甲賀 三郎 (こうがさぶろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 204,697 characters · 406 screens
かてゝ加えて妻子の事も気に掛る。
仮令一寸逃ても何とか口を開かねば、只知らぬ存ぜぬでは、突張れない羽目となって来た。その機微を察した署長はどうしてそれを見逃そうぞ。
「さあ、真直に云うが好い。小林貞は一体どこへやったのだ」
「誠にお手数をかけました」
支倉は頭を下げながら、
「貞はいかにも私が誘拐したのです」
「うむ」
署長は大きく眼を見張って、
「誘拐してどうした」
支倉喜平は神楽坂署に捕われてから、昼夜責め問われても、只知らぬ存ぜぬの一点張りだったが、訊問こゝに一週日、彼は始めて貞の行方について口を開いたのだった。庄司署長も根岸刑事も飛び立つ思いであるが、さあらぬ体で、この先の返答をじっと待った。
「申訳ありません。売飛ばしました」
支倉は深刻な表情を浮べながら答えた。
「なに、売飛ばした」
署長は鸚鵡返しに云って、
「どこへ売飛ばした」
「上海です」
「何、上海?」
「はい」
「うん、そうか。然し、お前が直接上海へ売渡す事はあるまい。誰かの手を経たのだろうが、それはどこの何者か」
「それは忘れました」
「なに、忘れた。そんな筈はない、思い出して見よ」
「何しろ三年も前の事だからすっかり忘れて終いました」