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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

Read 支倉事件 (はせくらじけん) by 甲賀 三郎 (こうがさぶろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 204,697 characters · 406 screens

Aozora Bunko

と染め抜いてあった。

「之は一体どう云う意味だ」

「さあ、さっぱり分らないね。第一この着物をどうしようと云うのだろう」

二人は評定をしたが、もとより分る筈がない。仕方がないので上役の所へ持って行くと、兎に角支倉に聞いて見ろと云う事になった。

「オイ、お前の所へこんなものが来たぞ」

看守の一人は云いつけられた通り、件の白無垢を持って支倉の未決監の前に立った。

「あっ、来ましたか、有難い」

支倉は一目見ると、ニッと薄気味の悪い笑みを洩らした。

「之はどうするのだね」

「公判の時に着て出るのです」

「なに、公判の時に」

看守は驚いて終った。

「して、この佐倉宗五郎と云うのはどう云う事なんだね」

「分りませんか」

「分らないね」

「そんな筈はないでしょう」

支倉は不機嫌になった。

「つまり私の身の上の事ですよ」

「お前の身の上!」

悟りの悪い看守は狐に魅まれたよう。

「そうです」

支倉は恐い顔をして黙り込んで終った。

支倉が自ら名乗って大正の佐倉宗五郎と云うのは、犠牲になったと云う意味か、それとも妻子を枷に拷問されたと云うのか、何しても自分の姓の支倉と似通った所から思いついたのであろう。