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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
Read 文藝別冊[総特集]岡本綺堂 (いけぶくろのかい) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 72,671 characters · 149 screens
何の相手を殺せばこそ主殺しにもなろうが、ほんの微傷を付けた位のことは別に仔細もない。妾達が呑込んでいて何事も内分に済ませる。あんな者に一生添わせて置いては、娘が如何にも可哀想だから、お前もそこを察して……この通り、主人が手をついて頼みます。」と、お常は鼻を詰らせて口説いた。
あんな者に添わせて置いては娘が可哀想だ……これもお菊の心を動かした。若旦那の又四郎は主人として別に不足もない。入婿という遠慮もあろうが、眼下の者に対しても物柔かで、ついぞ主人風を吹かしたことも無い。暴い声で叱ったこともない。しかしそれを若いお内儀さんのお婿として看る時にはお菊の眼も又違って、平生から若いお内儀さんの不運をお気の毒だと思わないでもなかった。第一に若旦那は今年三十九で若いお内儀さんは二十三だという。その時代に於ては十六も年の違う夫婦は余り多くは見当らなかった。年の若いお菊にはそれが余りに不釣合のように思われた。まだその上に若旦那は色の黒い、骨の太い、江戸の人とは受取れないような、頑丈な不粋な男振で、まるで若いお内儀さんとは比べ物にならなかった。何のこともない、五月人形の鐘馗様とお雛様とを組み合せたようなもので、余りに若いお内儀さんが痛々しかった。