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どうじ
文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
室生 犀星
Read 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子 (どうじ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 177,454 characters · 357 screens
「そうね。でも来たばかりだのに………けれども分らないわね。」
妻も危ながった。
「用事があったら明日昼間にしろと言って呉れ。今夜はだめだから。」
夏は、その通りを言い、すぐ乳母を寝ませることにした。あとで、
「旦那さまの仰いましたとおりを言いますと、しくしく泣いていましたの。」
妻にそう女中は告って、堅気な家はきゅうくつなんでしょうとも云った。
翌朝、ひと晩やすんだから、乳母の乳は出るだろうと心愉しみにしていたが、やはりちびりとしか出なかった。しまいに赤児の方で変に柔らかい乳首を厭がった。平林は、すぐ出掛ける用意をして玄関で待った。
「家へくる前にほんとに出たんですか。」
妻は牴牾かしがって尋ねると、乳母は、やはりいつも茶碗にしぼっては棄てていたと言った。わたしは全で出ない乳房のように凋んだ乳首を、厭なきもちで見た。
平林は、瓶をもって出て行った。――それを乳母は見送ると同じい仕草をその乳首の上に加えたが、やはり出なかった。
お昼にも、白い液体は出そうにもなく、さしつけたばかりでも赤児は厭がった。――乳母は、夏を通じて、昨夜の約束通りちょいと浅草まで遣って呉れと、しきりにせがんで利かなかった。