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どうじ
文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
室生 犀星
Read 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子 (どうじ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 177,454 characters · 357 screens
が間もなく何時ものようにその時刻から尻のほうから逆に上ってくるような水のようなものをかんじ、はっきりと目薬をさしたように瞳が冴え返ってくることをかんじるのであった。何が故であるか、その晩い時刻は先のかの女をおそうた幻影の内にもう一度かの女を引き摺り込むのであった。かの女は搾木にかけられたように硬ばって、頻りにその聴覚をかたむけはじめた。そのとき何処か道路のようなところで跫音がした。いそいで来るらしい木魚のような遠い音が、明るい電燈の点いている広いところから、鉤形にまがって急にほの暗い通りに歩き近づいてくるような気がしてきた。
かの女はそのとき目を閉じて耳だけを澄ましていたのである。奇妙な下駄の音はすこしずつはっきりしてきて、坂のようなところを上ってきた。ふた側の新しい家並みも寝しずまっていて、男の黒ずんだ姿だけが闇のなかに、もっと暗い影をひいていた。「あそこの角は果物屋になって居り、となりが床屋になっている。床屋だけが寝しずまった通りに明るい電燈を道路に投げている。そこへ暗い影が浮き出た。男がいまそこを通ったのである。それから溝川のごぼごぼいう重い音がして、男がそこをそっと通ると、暗い小路をまがった。