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どうじ
文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
室生 犀星
Read 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子 (どうじ) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 177,454 characters · 357 screens
おあいは、永い間、行燈のそばに坐って一枚の櫛のうらと表とをすかして見ていた。堀は、静かにねむっていた。蒼褪めた顔は小さく寂しげにやつれきっていたのである。
「おあい。」
そのとき夫は寝がえりを打って不図目をさますと、こう呼んだ。おあいは驚いてその櫛を膝と膝との間に入れた。
「まだ起きていたのか。」
「ええ。」
「いま何かおれが言いはしなかったかね。大きな声で。」
「いいえ。」
おあいは、坐ったまま、背後へそう答えておいて、膝をもじもじさせた。見られはしなかったかと気になったが、間もなく夫はすやすやと眠りはじめた。
櫛は、ほんのりと体温であたためられて、それが却って自分の体温ではあったが気味がわるかった。おあいは、うとうとした。遠蛙がやはり皓々と鳴いていた。
そのとき表のくぐり戸をしずかに叩くものがあった。いまごろ来る客はなし、と、おあいは起きあがろうとしなかった。けれども、潜り戸がしきりに叩かれた。気のせいではなく、どうやら訪ねてきたらしかった。仕方なしに、おあいは手燭を点して、夫が目をさまさないように、そっと玄関から前庭へと出た。
「ただいまお開けいたします。