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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 197,228 characters · 394 screens
彼の前を今、ひとりの年老った百姓が、軽桟に荷を附けて重そうに担ってゆく。
強右衛門は手ぶらであった。空身の者もいるが何となく彼には気がさすのだった。足を早めて、年老った百姓のそばへ寄ると、強右衛門は、
「おい。爺さん――」
と、声をかけた。
「まるで、せむしみたいな恰好して歩いてるじゃねえか。見ちゃあいられねえ。軽桟を外しなよ、おいらが背負ってッてやる」
意外な親切者に、爺さんはむしろ狼狽していた。強右衛門は否応を待たず、彼の背から軽桟を取って、自分の逞しい肩にかけた。
「いいよ、いいよ。こんな物、おらには背負っているもいねえも同じこった。爺さん、おめえは前の牛車の後にでも取ッついて行くがいい。あれなら楽だろ」
西陽の影はもう大地にない。紅い余映を雲の端にのこしているだけだった。
「停まれーッ。停まれいッ」
前の方で大声がする。
荷駄隊の部将がどなったのだ。見れば陣所の仮屋がある柵門がある。強右衛門は、何とはなく、どきッとした。
もう武田方の陣営が密集していた。敵地の中の敵地である。前列の方から順に厳しい調べをうけているらしい。――通れ、通れ、通れ、という前の方でする声がだんだん近づいて来るにつれて、強右衛門は口の中が渇いて来た。