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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 197,228 characters · 394 screens
しかも伝統の本質を失わずにで――ある。
いったいどんな偉大な作者がその上にいるだろうか。
作者はない。確実にあるものは、そうした文化性というものだけである。
強いて、文化の作者を求めるならば、それは時代だというしかない。
ことし天正七年、その「時代」なるものこそ作者というべきであろう。
「よい初春空でございますな」
信長がそんな考えに耽っていたとき、うららかな陽ざしを背にして、佐久間信盛が、この高閣の一間へ御慶を述べに来た。
ふと、彼は思い出していた。
いま信盛のすがたを見てからのことである。
「そうそう、あのことは、その後どういたしたか。あのことは」
信長は、手の杯を、小姓を通じて信盛へ酌しながら、唐突にこう云い出した。
杯を押しいただいて、
「あのこととは」
信盛は、主君の眉を窺った。信長が、なお何か、思い出そうとするように、掌をそれへ当てていたからである。
「そうだ。松寿丸とか申したな。竹中半兵衛の国許へ質子としてある――官兵衛孝高の小せがれがことよ」
「あ。あの質子の件にございますか」
「そちを使いとして、京に療養中の半兵衛重治へ、首を打って、伊丹へ送れと、申しつかわしてあったが……。