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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 192,758 characters · 383 screens
早々、お花見のおしたく、遊ばされますように」
「よういわれたぞ、御両所――」
と、官兵衛孝高も膝をたたいた。
「天地と永劫、万象も春秋に、そのすがたをかえてこそ、生命も久し。――そのあめつちの心をもて大きく申さば、このたびのこととて、めでたしといえぬこともない。吉野のさくら、時来らでは見られぬものよ。雨情を孕み、風の陽気に、おのずから咲き出るに、何の御分別や要り申さん。――秀政、幽古などの申すとおり、この上は花見始めの御一戦。しかと御決意あそばして然るべきかと存じまする」
左右の者のすすめは秀吉をして、いうまでもないことよ、と会心の笑みを抱かせたにちがいない。
実に秀吉の本意もそこにあるのだ。――が、ただ、秀吉は人々がそれを云い出すのを待っていたに過ぎない。彼としては、信長の死をもって、
――天地の慶祝なり。
とはいえなかった。
その痛哀をして、天下の悲愁たらしめず、天下の慶祝とさせなければならない、とする小義や私情を乗り超えた信念が、よしいかほど自己のうちに固くあってもである――不用意にあらわしては誤解されやすい。総帥の死はやはり三軍の喪であり、しかも彼の臣だった。