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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 192,758 characters · 383 screens

Aozora Bunko

小姓に、舟の支度を問わせると、

「まだ羽柴勢の堤に合図の小旗が見えませぬ。合図が見えたらお知らせ申し上げまする」

と、ある。

何という休戦の静けさだろう。陽は無心に似て、刻々、中天にかかってゆく。

この日、風もなく、城外四方、百八十八町歩にみなぎる濁水の色は、依然として赤く濁ったままであるが、梅雨の霽れ間のさざ波は、そよそよ陽を射返して、折々、白鷺の羽音のするほか、敵味方の陣営も、ここの一城も、実にしいんとひそまり返っていた。

そのとき、十数名の直臣たちは、やがて間もなく城を出る主人のおすがたに、さいごの名残を惜しもうものと、目顔で語らい合いながら、打ち揃って、そっと宗治のいる居室の外に居並んだ。

見ると、その宗治は。

時刻の来るのを待ち遠しげに、部屋の中で伸々と身を横たえ、ふたりの小姓に毛抜きで小鬢の白髪や耳の毛を抜かせていた。

縁の端からその態をながめた老臣のひとりは、じんと瞼に衝きあげてくるものを、わざと軽い戯れにして、宗治へ云った。

「これは、これは。殿には、時節がら不相応な男振りをお作りでござりますが、いかなる思し召しでございますか」

すると宗治は、片肱起して、むくと面をもたげながら、一同の者へ、