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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 192,758 characters · 383 screens
「認めたらすぐ、使いを走らすのじゃ。文言はざっとでよい。はやく書け」
「はっ」
祐筆の大村由己は、今、秀吉の口述をうけて、一書を代筆していたが、ふと、醍醐という文字をどわすれして、頻りと、筆の穂を噛みつつ思い出そうとしていた。
秀吉は焦れったそうに急いていたが、横からのぞいて、それと知ると、
「由己っ。何しているか」
と、寝ている者でもよび起すように、
「大五と書けやい」
と、呶鳴りながら、手をもって、虚空へ大きく、大の字と、五の字を書いて見せた。
大村由己は、驚いた。
醍醐と、大五では、まるで字がちがう。
宛字にしても、ひどすぎる。醍醐を――大五と書いたのでは、てんで意味をなさないではないか。そう思った。
「……は。恐縮にござります。……がそんな文字ではございませぬ。どわすれいたしましたのは」
「何をまだ。……これ由己。そちが先程から眉をしかめて思い出そうとしているのは、だいごと申す文字であろうが」
「御意で」
「じゃからよ――」
と、秀吉は、ふたたび指をもって、空間へ手習いするように大きく書いた。
「大五と書け。それで分るではないか」
「……はっ、はい」
ぜひなく、急かれるまま、由己はそう書いて、代筆の書翰を終り、秀吉はすぐ、それを小姓の手から、使番に持たせて、公卿の邸へ走らせてやってしまったが――由己は何とも後味が