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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 192,758 characters · 383 screens

Aozora Bunko

「先ずまず、おつつがもなく――」

「真ッ黒にはおなりなされたが、お元気はいちばいのようにお見うけ申された」

「なんと、御武運のめでたさ」

と、ほっとしたような声が全城に聞かれた。

留守居の衆の心では、この城へ無事に主人を迎える日があるか否かすら、今朝まで確信もなく案じていたところである。

――で、今、秀吉の泥まみれな姿を見ると、その眼は、熱くならずにいられなかった。余りの歓びに度を外して、大廊下を往来するにもつい駈け足になり、互いに告げる用事も声を弾ませ合うので、秀吉が本丸へ入った後も、城内は物音でいっぱいだった。いや城下もまた馬のいななきや兵の声で沸いていた。

秀吉は本丸に坐るとすぐ、

「何よりは、一風呂浴びたい、湯殿のしたくを」

と、小姓にいいつけ、さて、

「骨折り骨折り」

と、自分の苦労は忘れて、他の者をねぎらっていた。

留守居の将、小出播磨守と三吉武蔵守も、彼の前に平伏していた。

ふたりは、主人の帰着を祝してから、長浜からの使いが別室に待っていること。またほかにも一名の客がひかえている旨を告げた。

「御用意がととのいました。御入浴、いつでも」

小姓が伝えて来ると、秀吉はとたんに起ち上がって、