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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 176,911 characters · 353 screens
そう恥かしがるこたあないよ」
三蔵の眼が、獣じみた光をおびると、いきなり白い顔へ、彼の顔が、重なりかけた。
「何するんですッ」
ぴしゃッと、やわらかい手が、つよく頬を打った。
そして、かの女の影は、もう星の下を走っていた。
どっと、仲間の青鷺が、木蔭で笑った。
――三蔵の悄気た姿が、腰を立てると、また笑った。
敵地潜行軍の池田隊、森隊、堀隊、三好隊の二万は、八日の明けがた、宿営を払って、また、前日のような南下を、極秘につづけていた。
もう徳川領だ。敵地である。
三河へ。三河の岡崎へ。
全軍の一歩一歩は、かくて家康のいない家康の本城、勇将強卒はことごとく小牧の前線へ出払って、空き家にひとしい“出殻”となっている徳川家本国の中核へ、一挙に、致命を与えるべく、刻々近づいていたのである。
しかも。
この間道のうちの一城である徳川方の大留城は、すでに勝入に誘われ、秀吉からも、五万石の墨付を見せつけられて、籠絡され、この朝――池田勝入以下の南下部隊を、朝霧のうちに見ると、
「さあ、通られよ」
と、ばかり城門をひらいて、無防備を示し、城主森川権右衛門が、自身、出迎えて、道案内をする始末。