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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 176,911 characters · 353 screens
「武蔵守にも告げたか」
「もとよりです。森どのには、即座に、長久手へ向われました」
「聟は、何と申した」
「にんまり、御一笑なされて――さらば家康にきょうは見参の日か……と、すぐ馬上へ移られました」
久兵衛からこう聞くと、
「さもこそ」
と勝入も、にことして、肚をすえたようだった。
かれは、子息の紀伊守之助や、その下の三左衛門輝政などの年若い者までつれて来ていた。すぐ、旗本の梶浦兵七郎に、その子らの組へ、何事かを、伝えさせた。
覚悟を――たしかめさせる以外のことばではなかったろう。
やがて、陸続と、甲冑の団々たる群れと群れとが、今朝までの方向とは逆に、背進しだした。
途中。かれもまた見た。
ふじヶ根山の山かげから、さんとして、ゆれ現われた徳川軍の上なる金扇の馬じるしを。
それは何か“的の象徴”みたいな魅力をもって、曠野の士魂を、おののかせた。
一途に直進して来た軍と、身をめぐらして、もとへ背進する軍とでは、すでに兵気において心理的な差がある。
回し備えはくずれやすい。
馬上、それを鼓舞してゆく森武蔵守は――その姿は、すでに死を期していたかのようなものに見えた。