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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 176,911 characters · 353 screens

Aozora Bunko

その手段も、酷薄極まる。

この兇暴ともいえる血液は、信長にもあったものである。けれど、信長のそれは、天下の士を頷かしめるだけの大きな意義と情熱と、さらに、その犠牲も後には大きく活きうる理想を離れては行なっていない。

だから、時による兇も暴も、信長のは、英断といわれたのが、信雄のは、小策と感情による暴断でしかない。

すべて、大岐路にのぞんでは、一指を世にさす者の“断”こそ大事といわれている。しかし、活眼なき者の“断”ほど怖ろしいものもまたあるまい。過った一指はついに一世を過つ。

「すわ、大乱が起ろうも知れぬぞ」

長島城中一場の惨劇は、忽ち、ここの家中の足もとから、その夜からでも、四面の国境がみな戦乱と化すような、狂瀾の心理を捲き起した。

三家老の殺害は、秘密裡に行われたものの、その日、時を移さず、長島の兵は、老職各自の居城を攻め潰すべく、伊勢の松ヶ島、尾州の苅安賀、星崎などの各地へ急派されたので、人みなが、

「こうなっては、秀吉との手切れも、お覚悟の上に相違ない」

と、とたんに次の大戦を予想したのもむりはない。そして、昨年来、何か世の底流に、燻りに燻っていたものが、ここに火を噴いて、やがて満天満地を焦がす戦炎となろうとするのを――今は巷の声でなく臆測でなく、早や、眼に見たという感じだった。