Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens
強いて、子を思えば、
「あれも今に、わしのような困苦と、辛い人の世の旅をしだすのか」
と、傷ましい考えの方が先立ってしまうのであった。
竹千代とよばれた幼少に父とわかれ、六歳で敵国の質子となってから、今日までの流転の艱難を振り返ると――生れ出たわが子へも、人生の悲雨惨風を、思い遣らずにいられなかった。
――だが今は。
表面、人目には、彼の家庭も、府中に栄える今川衆の一家として、同様な身分と幸福らしい館作りには囲まれていた。
「はて。何の物音?」
元康は、ふと、室を出て、縁に立った。
誰か、築土に絡んでいる昼顔の蔓を、外から曳いたものであろう。
蔦、昼顔の蔓は、築土から庭木へまで伸びている。切れた蔓の反動で、梢が微かにゆれていた。
「誰だ?」
元康は、縁に立ったまま、もいちど云ってみた。
悪戯なら、逃げもするだろう。だが、跫音もしなかった。
草履をはいて、彼は築土の裏口をあけて出た。――と、そこに、待ち設けていたように、笈と杖を置いて、一人の男が手をつかえていた。
「甚七か」
「お久しゅうござります」
四年前。元康が、義元のゆるしをようやく得て、先祖の墓参にと、岡崎へ帰った時、その途中から姿を見せなくなったきりの家来――鵜殿甚七なのだ。