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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens

Aozora Bunko

「もってのほかです。阿呆どころではありませぬ」

「ふむ。――わしも油断のならぬ噂とは思うていたが、いまなお、それが先に頭にあるので、お館などでも、織田といえば、おかしそうに、敵ではないときめておいでになる」

「数年前とは、尾張衆の士気がまるで違うております」

「よい家来には」

「平手中務は相果てましたが、柴田修理権六、林佐渡通勝、池田勝三郎信輝、佐久間大学、森可成など、なお人物は尠なしとしません。わけて近頃、出色の男に、木下藤吉郎ともうす者……至って小身者の由ですが、何かにつけ、城下の領民たちの口端によう名の出る男などおりまする」

「領民は。――信長への、領民の気もちは」

「恐いのはそれです。何国の大将でも、治民には心を傾けておりますゆえ、領民が国主に服従し、国主を崇めておることは一様でありますなれど……尾張ではそこがちと違うように感じられました」

「どう違う」

鵜殿甚七は、ちょっと、考えていたが、端的にそれを、云い現わせないように、

「かくべつ、どうと申して、変った治策も見えませんが、とにかく領民が、信長を中心に、明日を憂いておりません。あの君在ればと安心している様が見えます。