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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens
彼の言葉は、十の考えを、二分しかいってなかった。
元康はそれを、自分の器量に容れて、すぐ何十倍にもして聞いた。
刮然と、彼の前には、活路がひらけて来た。――死地を生地にするの道がついた。
「もうよい。休息せい。――一同も軍議をやめ、兵糧なとつかえ」
元康は、本堂を出て、廻廊を行きつ戻りつ、足馴らししているように、巡っていた。
「首尾よう仕遂げたい」
元康は、合戦の勝敗以上、こんどは功を願った。初陣の時以上、今度は、頻りと、功に逸った。
府中を立つ時、義元は約した。
(今度の事のみは、首尾よう仕果されよ。それを称うて、三河へ帰国の宿望、かなえて取らすであろう程に――)
元康も、早く三河に住みたいのだった。譜代の古老や、自分を待つ臣下たちと、共に暮す日が待ち遠しいのである。
「新九郎、新九郎」
廻廊から、突然、元康は高く呼んだ。自然、声音が張っていた。
何事かと、高力新九郎は駈けて来た。どさと、草摺の響きをさせて、板床へ、ひざまずいた。
「貝を吹け」
元康の眼は、夕焼の雲を山門の梢ごしに見ていた。
群鴉が、黒く飛んでいた。
「はッ。では」
「出軍の――用意を」
「は」