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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens
西側の雑木林から、秩序のない弾音が、ぱちぱちと聞える。赤い蛍のように見えるのは、敵の散兵が、火縄を持って駈けまわる火であろう。
「撃てッ」
組頭の声に、松平方の鉄砲もみな折敷いた。
撃ってくる。
撃ち返す。弾木魂に、一瞬、耳がガーンとすると、もう兵の胆気はすわっていた。――しかし、気がついてみると、その隊だけ、本隊から置き捨てられていた。
聯絡に、戻って来た一騎が、
「なぜ撃つ! わき見すなという令が聞えなかったか、はよう来いッ。進むのだッ」
呶鳴られて、
「まだ進むのか?」
と、隊伍を乱したまま追って、辛くも本隊に合することができた。敵は、鷲津、丸根の砦を出て、絶えず突風のように奇襲をしかけてくる。それと戦い戦い駈け通るのだった。――そしてすでに、大高の城は、一里余も後に見られ、兵は、国境ふかく、敵地を踏んでいた。
それと共に、気づいてみると、千余の小荷駄と、元康の旗本隊約五百が、いつのまにか落伍していた。
「どうしたのか」
全軍の四分の一にあたる人数だし、大将のいる主隊を見失ったので、松平勢はやや動揺しかけたが、そのうちに、
「寺部を奪れッ」
と、いう号令であった。