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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens
「然らば、誰の妻に?」
と、相手がなじると、藤吉郎は、自分の顔を指でさして、
「かく申す私で」
と、いった。
犬千代は、再び笑ったが、前のような哄笑ではなかった。
「冗談も程にいたせ。猿殿、おぬしは鏡というものを見たことがあるか」
「――では、嘘じゃと仰っしゃるのでござるか」
「寧子が、おぬしなどと、約束するわけはない」
「真実であったら如何なされますか」
「真であったらめでたいわ」
「寧子と私が婚儀をいたしても、その折には、ご異存はございませぬな」
「猿殿」
「は」
「人が嗤うぞ」
「嗤われても何でも、相思のふたりが仲は、どうすることもできません」
「真面目か、いったい」
「かくの如くで」
「女子というものはな、云い寄られた男が、ぞっとする程きらいでも、柳のように、程よう逸らしているものぞ。それをば後になって、自分の愚かと思わず、騙されたなどと恨まぬがよいぞ」
「とにかく、それでは、寧子と私とが、婚儀を挙げる場合になっても、又右衛門どのへ、お恨みはありますまいな。――それもあなたの不明ということになりまするで」
「勝手にせい。――先頃からわしへ用事があるといっていたのはそのことか」