Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens
「於藤。……これ、於藤」
呼びさますと、
「はいッ」
藤八郎は、真っ直ぐになって、口のはたを手の甲で拭いた。
「よう寝るやつ」
「御勘弁くださいまし」
「いやいや、叱るのではない。むしろ賞めてつかわしたいほどじゃ。ははは、信長もちと眠る――。何ぞ、枕になるものを貸せ」
「このまま」
「そうだ。夜も明けやすうなったし、転寝には、よい季節よ。……おう、彼方の千鳥棚にある手筥をかせ。枕に……」
云いながら、信長は、身を曲げて、於藤がそれを持って来るまで肱で頭を支えながら、浮舟のように躯を泛していた。
文筥の蓋には、室町蒔絵の松竹梅の図が盛ってあった。信長は、頭を当てがいながら、
「よい夢枕……」
独りでニコと笑いながら眼をふさいだが、やがて、小姓の於藤が、数多くの燭を一つずつはしから消してゆくうちに、信長の微笑も、雪の解けるように薄らいで、いつのまにやら深々と、鼾声の中の寝顔となっていた。
「殿さまには、御寝なされました……お静かに」
於藤は、侍たちの詰部屋へ、そッと、告げに行った。
「そうか」
と、そこにいる人々も、重苦しい――しかし悲壮な眼いろをもって、頷いた。
もう絶対なものが、誰の胸にも覚悟されていた。