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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens
(だが、御勘気の者を)
と、岩室、千秋のふたりに憚られて、すぐ答えもし得なかった。
すると、岩室重休が、
「さすがは!」
と、共鳴して、
「さしつかえもおざるまい。今日という今日においては」
「同意同意」
千秋加賀も、大きくうなずきながら、何のためらいもなく云った。
「死出の友よ。一人でも多いは楽しい。於犬どのの心底、弓矢の神も照覧。佐々殿、彼のねがい、許しておやりなされ」
「かたじけない」
隼人は、犬千代にかわって、思わず礼をいった。そして馬上から声にも眼にも思いをこめて、
「ゆるす、ゆるす。物の見事に働かれよ」
「ありがとうございます」
犬千代が起つと、同時に、三百人の縦隊は、再び悲壮な眉と唇に、一死を見つめながら、白昼を真っ黒に駈けていた。
やがて――
鳴海城の搦手の方角に、突貫のどよめきが揚った。
無理押しに、押し攻めたのだ。
無二無三、
わあッ。わあっッ。
と、聞える声海嘯のうちに、前田犬千代の声も交じっていたのである。
だが、程なく。
三百の決死隊が前進したばかりの間道を、たった、四、五名の兵が、火の玉のように血まみれとなって――そのうち一人は騎馬で、善照寺の方へすッ飛んで行った。