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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens

Aozora Bunko

「一刻まえには、佐久間大学、飯尾近江。今はまた、佐々、岩室、千秋なんど、信長の先駆けして、冥途の前触れに立ったるぞ。憎や、小賢しの敵めら、いで信長がふみ潰して、先駆けの精霊どもに手向せん。――つづけッ、信長に!」

四顧して、大声にいうと、馬首を敵地へ向けて、駈け出そうとした。

「あいやッ」

「殿ッ」

「逸り給うな」

「しばし――しばしの程」

池田勝三郎、柴田権六、林佐渡、その他の旗本たちは、いちどに、鎧の塀を、どっと彼の馬前に作って、

「これより先は、泥田の畦や狭き藪道。一筋押しの御先駆は、可惜、無駄にお生命をすてに逸り遊ばすようなもの。――また、織田家中には、殿のほか、人もなきに似たり。おとどまり候え」

「まずまず……」

人々が信長の駒を抑えて、その蹄の足掻きを、無理に押し返しているところへ――一騎、実にただ一騎――それは意外な方角から、低く飛ぶ鳥影のように来る者があった。

「何者?」

信長の眼が先に見つけた。

「…………」

見まもる全軍の瞳に、それは次第に近づいて来た。旗本の群れのうちから、やにわに躍り出した梁田弥二右衛門が、

「分りまいた。分りまいた。あれよ、この方がかねて、海道の方面へ放ち置いたる家の子の一名でござる」