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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens
「桶狭間より半里、有松と落合村のあいだ――田楽狭間と申す所でござりまする」
侍大将の落合長門が答える。
義元は、うなずきつつ、近習沢田長門守に兜をあずけ、小姓頭島田左京に具足を解かせ、絞るような汗になった鎧下の真っ白な肌着を着かえていた。
ひと風入れて、
「爽やかになった」
と、鎧の胴締めを締め直して、座所へ移ると、そこの山芝のうえには、豹の毛皮をしき、陣中の調度の物なども置かれて、飽くまで彼のいるところには豪奢の光がつき纒っていた。
「……やッ? あの音は」
義元は、早くも同朋の者が沸かしてさし出した茶を一喫しながら、何か、石火矢でも撃ったような轟きに、眼をうごかした。
「はてな?」
侍臣たちも、耳を欹てた。
その中の一人、斎藤掃部助は、幕のすそを掻き上げて、外を見まわしていた。いつの間にか、中天へ伸びて崩れだした雲の峰が、灼熱の太陽を弄んで、名状すべからざる渦流の彩光を描いているのが、人々の眼を、強く射た。
「遠雷です。ただ今のは、遠雷の音でござります」
掃部助が、そこからいうと、
「かみなりか」
義元は、苦笑した。絶えず左の手で腰を軽く叩いていた。侍側の家臣たちも、気にしてはいたが、わざとその故を問わなかった。