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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens
雨がバチャバチャとその背で音を立てている。武者草鞋は真っ赤だ。血の河を蹴ってすすむ。
庵原将監と名乗って来た者を突き伏せた。しかし、突き捨ててまたすぐ進む。――鉄漿公方はいずれにありや。駿河殿の首級な申しうけん。雨も叫ぶ。風も叫ぶ。
父将監討死ときいて、義元の小姓庵原庄次郎、善戦して、織田武者の群れのなかに死骸となる。
関口越中守、富永伯耆守など、今川軍の名だたる猛将も、それぞれ恥かしくない死に方であった。
勿論、織田の将士で、傷つく者も多い。けれど、敵の十に対して一ほどな死者もなかった。
どこで、どう組んで、敵にぎとられてしまったのか、進軍の途上、信長の馬前にすがって、陣借して参加した甲州牢人の桑原甚内などは、腰から下の具足や草摺は着けていたが、上半身の鎧は失って、半裸体のまま、血あぶらに染んだ槍を握りしめ、
「駿河殿に見参ッ。御大将義元には、いずれに在わすや」
楠の後ろの辺りを中心に、十歩、二十歩、あなた此方、シャ嗄れ声をしぼって駈けまわっていたが、そのうちに、一ヵ所の陣幕のすそが、烈風にふき煽られてぱッと剥くられた刹那、チラと、その中にいた赤地錦の鎧直垂と八龍の兜との人影を、一閃の雷光の下に見つけた。