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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens

Aozora Bunko

犬千代は、垣の外を振りかえって、暗がりへ手招きした。

「おーい、方々、この家の聟へ水掛祝いしてくれよう。はいりなされ、はいりなされ」

すると、声に応じて、

「水掛祝いしよう。水掛祝いしよう」

と、異口同音にいいながら、庭いっぱい押し込んで来た顔を見ると、池田勝三郎がいる、佐脇藤八郎がいる、加藤弥三郎がいる、また、旧友がんまくが見える、あばたの棟梁もいる。そのほかお厩方や台所方の近年までの同僚など、犬千代に従いて、もう簀掻莚のうえへどやどや上がりこんで坐っていた。

水掛祝いというのは、聟入りした家へ、聟の日ごろ親しい友達らが押しかけて祝う習慣である。婚家はこの際できる限りこれを歓待する義務があり、押しかけ祝いの客たちは、ぞんぶん振舞いに甘えて騒いだあげく、花聟を庭上へひき出して、水を掛けて帰るというのが例であった。いつの時代から流行りだした風習か、花嫁の「そうどう打ち」などという慣わしと共に、室町から戦国頃の婚礼には、きまって行われたことの一つであった。

――だが、今夜の水掛祝いは、すこし気が早い。

ふつう世間であるのは、聟入りしてから半年目とか一年目とかに押しかけるのが例なのに、まだ、杯事の式が今すんだばかりのところへ、