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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens

Aozora Bunko

正義は廃れまする」

「いや、そうでない」

「叔父上。あなたは、この期になって、さては怯れに襲われましたな」

「十兵衛。いうたな」

光安入道は、一言、激越に叱ると、子と甥が見ている前で、短刀で自分の喉を横に掻き切って仆れた。

その時、春雷の鳴ったような轟が、大地を揺りあげた。水の手の貯水池にはさざ波が立ち、空には黒煙がいちめんに濃く漲った。

「おう、火薬庫も」

十兵衛は駈けて、木の間から城のほうを偵察していた。その顔も、木々の幹も、不意に赤く照り映えた。城は一瞬に火の海と化し、この山の生木までバリバリと燃えて来たのである。

こんな僻地の小城に似げなく、搦手曲輪の一棟には、たくさんな火薬が貯えられてあった。

鉄砲という新武器に目をつけたのは、美濃では、誰よりも十兵衛が早かった。彼はそのために、九州や堺へも何度か行った。そして逸はやく岐阜の里に鉄砲鍛冶を養成し、自分の居城には、ひそかに火薬も貯えたりしていた。

十兵衛の頭脳は、時代の先見に、明敏であった。鉄砲の構造のように、科学的でもあった。

だが、彼の緻密な推算でも、自分をうごかす運命の率は割り切れなかった。