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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 190,406 characters · 381 screens

Aozora Bunko

翌日。

彼は厩衆の溜にいた。

厩方に勤めてからは、そのほうでも、彼の精勤ぶりは、誰にも劣らなかった。

(あんなに、馬の好きなやつはないな)

と、同僚からも呆れられる程、彼は自身の受け持っている厩廻りの仕事と、また、飼馬に手をつくして、馬と共に起臥していた。

「木下。お召しだぞ」

厩の前に、組頭が来て告げた。藤吉郎は、信長の愛馬山月の腹の下から、

「――誰がで?」

と、訊ねた。

山月の脚に、腫物ができたので藤吉郎は、馬盥の湯で、馬の脛を洗ってやっていたのである。

「お召し――といえば、御主君にきまっておる。殿のお召しだ。はやく行け」

組頭は、そういって、

「おい、誰か、木下に代って、山月をお厩へ入れろ」

と、侍たちのいる溜を振り返って云った。

「いえいえ。やって行きます」

藤吉郎は、馬の腹の下から出なかった。山月の脚を洗い終ると、薬を塗って、布でしばってやり、そして馬の首や毛なみを撫でながら、自分で厩のうちへくくりつけた。

「殿様には、どちらにおいでになりますか」

「お庭先だ。はやく行かぬとごきげんを損ねようぞ」

「はい」

彼は、溜の内へはいって、壁に懸けてある例の青木綿の一張羅を引っかけた。